(7/13)「誹謗中傷」という叫び

  • この数年の間に大学の非常勤講師を経験された方ならばご存じだろうが、今殆どの大学では無記名式の「授業評価アンケート」が実施されている。つまり、学生が教員を「評価」するのである。
  • 趣旨は大賛成だし、私も学生に高く評価を受けられるような講義をめざして不断に努力しているので、それを数値化してもらいたい気持ちもある。しかし、このアンケートを「ストレスのはけ口」程度にしか考えていない、ごく一部の学生がいる。私の経験上、どの大学にもいる。大学ランキングや偏差値的なものによる差はほとんど無く、大講義ではたいてい出現する。
  • 「ストレスのはけ口」の主な内容は、「アンケート統計の妨害」と「誹謗中傷」に分けられる。「妨害」行為とは、「所定の欄にマークを付けない」、「自由記述欄に落書きをする」などである(特にピカチュウの人気が高い)。「誹謗中傷」とは、「理由を示さず講師を非難する」、「講師の人格を傷つけようとする言葉を書く」などである。
  • そんなごく一部の学生を「幼稚」と切り捨てるのは簡単だが、お互い不幸なことであるのは間違いない。そもそも学生が書く「誹謗中傷」は誰にも届かない。講師が不快に思って、それきりである。講義の改善にも役立たなければ、学生が誹謗中傷を書く要因となった不満も解消されるわけではない。それどこか、誹謗中傷という形式では、講師は何を改善して良いのかすら分からない。
  • また、アンケートは「無記名」だから何を書いても良い、と考えているのかもしれないが、私の知る限り、アンケートの調査結果だけでなく、調査原紙もすべて講師の元へ届く。つまり「誰の字でそれを書いたか」はすべて分かるのだ。彼らはそれを知っているのか、知らないのか。知られても誹謗中傷したい「何か」があるのか。その「負のエネルギー」を思うと、そういうエネルギーを生み出さない方法はないものか、と思う。
  • 大講義において高確率で「ストレスのはけ口」学生が出現する理由を考えてみると、やはり100人以上がまとめて講義を受ける、という形式そのものに一部の学生はストレスを感じているのではないか、と思う。
  • 実際、私は講義終了までの間に百数十人の学生の識別はできない。そこからくる学生たちの疎外感は、学生の間に「講義という映像」を見ているような錯覚を起こさせる。自分が「百人以上の人間がいる教室」にいることを忘れさせ、90分間携帯メールをいじっていても何の罪悪感もない、といった学生を生み出す。個別に注意されて初めて、自分が「映像」ではない室内にいることを思い出す、といった具合である。
  • 「授業評価アンケート」という存在で私は、大講義教室にストレスが渦巻いていることを知るきっかけになった。問題はそのストレスをどう減少させるかなのだが、アンケート実施だけではどうにもならないことも、そろそろ全国の大学が気づく必要があると思う。