「下荒井兄弟のスプリング、ハズ、カム」【ネタバレ注意】

  • 夜。相方が昨年秋にチケットを確保したという、チーム・ナックスの『下荒井兄弟のスプリング、ハズ、カム』大阪公演の初日を観に行く。会場はOBPの「シアターBRAVA!」。今回はナックス公演では初めての大泉洋の作・演出だという。会場は満員の大混雑。グッズ売り場に数百人の長蛇の列ができていた。
  • ネタバレになるので詳しいことは書けないが、総合評価を書くと「ナックスを知らない人には誘えない」レベルだった。五人のキャラを知っている者にはすんなり入れる役柄設定だったが、そうでない人には面白い芝居だったのかどうか、正直なところよく分からない。
  • 私は「水曜どうでしょう」をほぼ全回録画し、発売されたDVDを全部揃え、「水曜天幕団」や「ドラバラ鈴井の巣」(特に大泉洋脚本の「山田家の人々」)も買い、「水曜どうでしょう祭」を観るためにわざわざ札幌まで行ってきたほどの「どうでしょうバカ」である。だから、彼ら五人の人となりは頭に入っているからそれなりに楽しめたが、「初っ端からヤスケンがなぜ○○になったのか」など、知らない人が観たら「この役者さん変」としか思わないだろう。所々に下ネタが入るのも、大泉の嗜好なのだろうか。
  • この五人は、それぞれ芝居の「大きさ」が異なるのだが、それを放置している珍しいユニットである。音尾が一人気を吐いて「舞台の芝居」を打っているのだが(そうしないと号泣の場面が白々しくなってしまう)、残りの三人(大泉、戸次、安田)はテレビでの演技が多いせいか、どうも芝居のスケールが小さい。二階席の奥にまで届く演技になっていない。いわゆる「劇団の舞台の芝居」というのは流行らないのだろうか。この演技をビデオで撮影し、DVDで売り出せば違和感はなくなるのだろうが、それなら客は何のためにいるのか。
  • 「山田家の人々」を見たときも思ったのだが、大泉洋が脚本を書いて描きたい世界とは、本人のキャラクターとは裏腹に、ずいぶん昔に流行った、意外にウェットな家族関係をベースにしたホームドラマである。私も本放送を覚えていないような、「寺内貫太郎一家」「時間ですよ」路線の、笑いあり涙ありお色気?ありのドラマを見せたいようである。森崎が舞台公演で描いてきた熱い路線とも、社長である鈴井が映画などで描いた緩い路線とも異なるようである。その意図は分かったが、二時間弱で音尾の号泣にもらい泣きはできなかった。こんな変わった家族に感情移入はできない。いくつか伏線を張っておきながら回収していない設定も気になったし、設定自体のいくつかの無理も気になった。
  • かくして、今回の舞台は「8時だヨ!全員集合」の公録を見ているような気分になった。志村やカトちゃんがイメージ通りの役柄で舞台を駆け回ったら、それだけで子どもは大喜びする。確かにファンだけで箱は満杯になるだろう。興行的には大成功だ。でも、それでいいのか?と言いたくなった。