『大阪薬科大学紀要第2号』掲載の拙論がPDF文書でアップされました

  • この拙論は元々、私が大阪薬科大学で担当している「女性学」での議論の一部として構想されたものであり、それが急遽『紀要』の論題として私の中で浮上し、原稿化したものです。それゆえ、あくまで読んでもらおうとした対象は学部学生であり、討論のための一つのヒントを提供したにすぎません(実際、哲学・倫理学研究者の立場として私がこれを読めば、自分で物足りなさを感じます)。だから「倫理学者センについての研究論文」を期待した人は期待はずれに終わる可能性が高いことを、あらかじめ申し上げておきます。
  • ただ、拙論をあえて発表した意義は単に「学生の読み物」だけではない、とも考えています。この拙論では直接触れていませんが、昨年7月に男女共同参画会議が発表した『「ワーク・ライフ・バランス」推進の基本的方向』には、耳障りの良い「バランス」理念をうたいながら、そのような自由な労働形態でも生活できるだけの労働環境・生活環境は結局、経営者の「意識改革」に期待するという「取組」の案が並んでいます。これが本当に進めば、多少「完全失業率」は減っていくかもしれません。しかし、「働き口はあっても生活費が確保できない」女性労働者・高齢労働者の激増が予想され、今まさに焦点となっている日本の労働者の「貧困化」の解消には貢献するどころか、それに逆行する対策となっています。
  • このように今、「男女共同参画」の名のもとで進んでいるのは、「ジェンダーフリー」という言葉と理念の抹消といった目に見えやすい「バックラッシュ」だけではありません。だから「男女共同参画」施策の方向性を批判的に検討する一つの物差しとして、「性の下の平等」を諸個人の実行可能能力の豊富化と結びつける議論をもっと行う必要があるのではないかと私は考えています。そこで、「ケイパビリティ・アプローチ」のアマルティア・センを一つの手がかりにして、拙論を(たとえ不十分でも)発表しよう、と決意したのです。もちろん、その試みが上手く行ったか失敗したかは、お読みになった皆さんのご判断にお任せするしかありません。