27日午後1時、「博士たちのワーキングプア」

  • テレビ東京系「ザ・ドキュメンタリー」で表題の番組が放送される。たった30分の番組であるが、私たちにとっては「やっときたか」の感がある。
  • サブタイトルに「1コマ2万5千円」とあるが、これはたぶん国公立の相場だと思われる。私学は(大学によって異なるが)もう少し高い。といっても数千円の違いであるが。ここでいう「1コマ」とは、「90分の講義」であり、「2万5千円」とは1ヶ月あたりの金額であろう。こう書くと、「なんだ90分を4回か5回しゃべっただけでそんなにもらえるのか」と思われるかもしれないが、内容によって講義90分の数倍の準備時間がかかるため、たくさんの講義が担当できず、1ヶ月あたりの収入が低く抑えられてしまう。番組の告知には登場する非常勤講師は8コマやっているらしいが、これは相当恵まれている方である。大学の非常勤だけで月収20万を確保できている講師は全体の中ではかなり少ないのではないか。大半が塾や予備校、家庭教師、あるいは教育関係以外のアルバイトを兼務しないと生活費が確保できないのが常態化している。もしそのようなことをせず、1,2コマだけで生活している非常勤講師がいたとしたら、それは誰か(社会的制度を含む)に養ってもらっているか、何らかの大きな蓄えのある人である。
  • 我々若手非常勤講師の状況は、入学してくる大学院生にとって誠に夢のない状況である。有能な院生の多くはその将来に希望を感じられず、一般企業への就職を選んでしまう。大学院に長くいればいるほど他の仕事に変わりづらくなり、貧乏生活から抜け出せなくなる。この高学歴プアを放置する日本という国は、毎年膨大な数の「研究者の卵」を潰していっている。しかし研究者として大成する前だから実態が見えにくく、誰も責任を取るわけではない。
  • また、番組で扱うかどうか分からないが、博士修了者が貧乏になる理由は、旧育英会奨学金返還システムにも問題がある。修士課程、博士課程で借りた数百万円は、簡単に言うと所定の期限までに専任の教員になれたら返還しなくてもよく、就職できなければ返還の義務が生じる。つまり、晴れて高収入を得られる立場に立てた者はお金を返す必要が無く、低収入のままの者に返還義務が発生し、返せ返せと督促を受ける。もちろんこの制度は多くの院生に就職活動を積極的にさせるためという目的があるのだろうが、現実は本人の意欲がある程度では殆どどうにもならない。これは大学新卒の就職活動よりも厳しい現実がある。
  • 「低学歴だから派遣やフリーターにならざるを得ず生活に困るのであって、高学歴になればそういうリスクから逃れられる」と考えている人がいるとすれば、それは明らかに誤解である。高学歴であれ、生活苦のリスクはごろごろ転がっているのが今の日本である。