女性専用車両

  • ある原稿を書いていて、詳しく取り上げることを断念したテーマについて少し書きたい。それは「女性専用車両」である。私の調査・検索が足りないだけかもしれないが、ジェンダーフェミニズム、女性学といったジャンルの著書・研究書類では、「女性専用車両」について詳しく論じている文章が少ないように思われる。大学の大きな図書館で検索しても、「女性専用車両」というキーワードでは一冊も引っかからず、ジェンダーフェミニズム、女性学、男女共同参画などで、これまですでに百数十冊の目次をあたったが、この問題を主題とする論考には結局出会えなかった(繰り返し書くが、私の調べが足りないだけかもしれない)。これはこぼれ話だが、アマゾンで「女性専用車両」で検索をかけると、アダルトDVDが十本弱、アダルト漫画が一冊検索結果に浮上しただけだった。内容は(おそらく)女性専用車両での痴漢行為や性犯罪を扱っているのだろう。出版界ではこれが実態なのだろうか。
  • 私は講義で「女性学」を担当しているが、「性による差別」について学生に意見を求めると毎年上位を占めているのが、この「女性専用車両」である。その多くが、「あれは男性差別ではないか」という内容で書いてくる。これを「差別是正措置に対する無知だ」とか「痴漢などの性暴力の実態を知らないからだ」と一刀両断するのは容易い。だが、毎年のようにそういう意見が出てくる以上、この施策についてもっと広く「女性専用車両を利用できない側」にも周知や理解を進める必要があるのではないかとも思われる。そしてお互いが不満のできる限り少ない形で運営する責任が鉄道会社側にあるのではないかと思う。これは推測だが、小中高の教育の中で「女性専用車両」を理屈で説明され、納得した生徒たちが少ないのが原因の一つではないか。いや、そもそも小中高でそんな教育を受ける機会があるのだろうか。
  • 一方で、ずっと「女性専用車両」は必要だとする(主に)女子学生からの意見も根強い。若い女性が電車通学中に、酔っぱらいや挙動不審な男性に付け狙われたり、実際に痴漢被害に遭った経験はたとえ一度でも、その恐怖は長く残る。それらが犯罪と立件されることは稀であって、つまり警察庁の認知件数にカウントされない。だから、痴漢対策が進んで、仮に一年を通じて痴漢被害が一件もなかったとしても電車に女性専用車両は必要ではないか、と意見を述べてくれた女子学生もいた。単純に「女性専用」と書くと反発を覚える人も、女性に限らず、児童など性犯罪における「弱者」にとって比較的安全が確保される空間があらゆる公共空間に必要だ、という主張ならば、どう思うだろう。電車の「女性専用車両」もまだまだ工夫の余地があることが見えてくる。
  • そして最初の話に戻るのだが、ネット上で検索をかけると、どうやら「女性専用車両」に反対、あるいは疑問を持っている人々の声(数、は別にして)の方が大きいようである。この問題の倫理と論理を整理することは、来年度に向けて現在の私の宿題となっている。