会場の外の路上で号泣しそうになる映画ってなかなか無い(『スラムドッグ$ミリオネア』)

手書きのチケット

  • 昨日の仕事の帰りに、TOHOシネマズ梅田に寄って、映画スラムドッグ$ミリオネアを見た。チケットは二日前にネットで予約しておいた。会場は少し離れたアネックス。二時間近く早くついたので、端末発券だけしようと思ったが、端末は「調整中」の看板が。(余談だが、私がアネックスへ行ったときに、待合で「ザ・プラン9」の「お〜い!久馬」が『バーン・アフター・リーディング』を見るために待っていた。ハンチング帽にメガネ、ヒゲ面。テレビで見たまんまだった)
  • 本館に行って発券しようとしたら、チケット窓口は大行列で、本館の端末もストップしていた。どうやら「システムエラー」が起きているという。係員が必死の手作業で発券をしていた。壮絶な現場である。私もネット予約をしていることを確認してもらうのに10分、座席チケットはなんと係員の手書きだった。(サイトによれば、その日の午後11時50分に復旧したらしい。系列館30もの劇場で同時発生したようだ。泣く子とコンピューターシステムのダウンには勝てない)【写真は、係員が書いた手書きのチケット。ある意味貴重品】
  • 会場の「シアター10」はほぼ満員の盛況。私の両隣は私と同じ男性の一人客。映画のストーリーは、孤児として育った無学の少年(ジャマール)がインド版「クイズ・ミリオネア」に出場し、奇跡の連続正解をしていく。しかしインチキをしている疑われ、警察に連行。尋問、拷問を受ける。実はその少年の生い立ちの中に、クイズの連続正解を可能にした秘密が隠されていた…という話。不幸にも孤児となったジャマールとサリーム、そして同じく孤児であるジャマール初恋の少女ラティカ。兄弟の運命は、そして少女との恋の行方は。(こう書くと陳腐だなぁ。すっごく感動したんですけどね、子どもたちの生き様に)
  • 詳しい内容(特に後半)はネタバレになるので書かないが、感想は「インド映画はこれからどんどん世界の映画を引っ張っていきますよ!」という宣言を見たような気分だった。笑いと涙のうち、涙の部分は現代インドの絶望的な貧富の差や、身寄りのない子どもたちに待ち受ける運命の残酷さで揺さぶられ、笑いの部分は、そういう境遇でも快活でたくましく生き抜いているエネルギッシュさだろう。ストーリー自体は、後から考えればかなり都合良く展開するのだが、見ている間はそれを意識させないほどガンガン進行していく。3時間以上はかかりそうな内容を2時間で収めてしまっている。
  • 先日の「月一ゴロー」でもこの映画を絶賛していたが、彼が語っていない(あるいはカットされたか)絶賛に値する要因は、やはりこの映画が、人々が昔から映画に求めてきた「娯楽の真髄」の部分を見事に表現できていたからではないか、という気がしてならないのだ。最近のハリウッドが忘れていた映画の大切な要素だと言ってもいいかもしれない。「嘘くさくない純愛」を描ききれるのは、もはやボリウッド映画だけかもしれない。
  • 今、こうやって書きながら映画のシーンを思い出していても涙が出そうになってくる。これは「良い映画を見たなあ」という明るい感動の涙だ。(ちなみに表題の「号泣しそうになった」のは私の場合、例のダンス・シークエンスあたりからだ)
  • 見終わった後にパンフを買った。パンフの情報をしっかりと入れてから、とにかくもう一回見に行きたい。今度は一番後ろの列の一番端っこに席を取って、心おきなく泣いておこうと思う。先の稲垣は、今まで見た映画の中で「五本の指に入る」傑作だと言っていたが、私もこんな感動する映画には、今度いつ出会えるか分からない気がする。芸術的価値の高い映画や、映画史上に記録的なヒットを残した映画など、様々な「ベスト5」や「ベスト10」があるだろうが、「これからの人生の中で、このような映画鑑賞体験を5回もしないだろう」という意味では、私も五本の指に入る傑作だと言って良い。
  • 帰宅後、録画しておいたアカデミー賞の授賞式の模様をもう一度見た。最優秀作品賞の受賞の場に、スクリーンの中にいたジャマールが、ラティカが、サリームが壇上にいるではないか。ミリオネアの司会者、尋問した警部、ダニー・ボイル監督も。壇上で、ミリオネアに出場した時代のジャマールが、幼少期のラティカを抱きかかえている風景は映画を見た後では奇妙に感じてしまうが、これも授賞式ならではの風景だ。この授賞式の映像を見直して、今年の外国語映画賞おくりびと」受賞時のプレゼンターの一人だった女優は、大人になったラティカ役の女優(ムンバイ生まれの女優・ファッションモデル、フリーダ・ピントだったんだと知った。
  • とりとめもなく長々と、感動を文字にしようと頑張ってみたが、やはり映画館に行って観てもらうのが一番だと思う。ボリウッド映画よ、ありがとう。
  • 追記。昨年11月、映画評論家の町山智浩氏はTBSラジオ「ストリーム」でこの作品を日本に紹介している(当時のブログ)。当時はまだ日本公開が未定だった。番組では「ものすごく面白かった」「圧倒される面白さ」だと語っていた。当時の予告編の動画はこちら