(3/19)ムンクさん
- 「叫び」でおなじみのムンクだが、今回のコンセプトは彼の晩年にかけての事業である「装飾」に焦点を当てている。今回の展覧会で、ようやくムンクが「一人の画家の生涯」というスタンスで紹介された。
- 「叫び」があまりに注目されすぎて、ある種、描かれる絵の「異常性」に目が行きがちだが、仕事を受注して描いたムンクの作品はきわめて「健全」で、「北欧の民族画家」という雰囲気さえ漂わせていた。絵のタッチは明らかにムンクのそれであるが、モチーフは逆に拍子抜けするほど「普通」のものもあった。ただ、「リンデ・フリーズ」をめぐるエピソード(子ども部屋に飾る絵だから愛し合う男女は描かないでと頼まれても、やっぱり描いてしまい、ほとんど送り返されてしまった話)などを見る限り、商業的に成功していたとは思いにくい。
- 「労働者フリーズ」に描かれた労働者は過酷な肉体労働者ばかりで、今の時代から見ればかなりステレオタイプな「労働者」像であり、ソビエトロシア的とも言える。最晩年、彼は屈強たる労働者像を繰り返し描き、そこに何を託そうとしたのか、気になるところだ。私の専門のせいもあるが、絵画展を見に行っても「画家の思想」に関心がいく。