(10/26)古老のまなざし

  • 神戸市立博物館の「コロー展」へ。混み具合はそれほどでもない。雨が降っていたせいか。
  • コローはいつ頃からだったか、私が西洋の絵画を見始めてすぐにファンになった画家の一人である。ブリヂストンや大原で見たのも印象深かったが、それ以外でも全国にコローの絵は所蔵されているので、見るたびに発見があった。今回はコローをまとめて鑑賞するには最良の機会だった。若い時期のまだコローらしさのない素朴な風景画、脂の乗ってきた時期に仲間の画家たちと似たようなモチーフ作品を作っていくが、フランスの街の風景でも田園風景でも、そして肖像画でも仲間の画家のインパクトに及ばない(と私には見えた)。彼の作品世界は森へ森へと深く進んでいく。単なる風景画から神話などを題材とした作品へ移行していくのは必然だったのかもしれない。
  • 特に晩年の心象風景の画は印象深い。老人(古老?)の思い出の中にある森の風景をモディファイドした世界は、宮沢賢治が好んだ世界でもある。今回、新潟県立近代美術館の「ビブリ」が来ている。この絵を見たいが為に私は何度、長岡まで足を運ぼうと計画したか分からない。この絵のモチーフの一つとされているギリシア神話ビブリスの物語は、(記憶が曖昧だが)一説には「グスコーブドリの伝記」におけるブドリとその妹ネリの物語に通じている、と言われている。という程度の理由だが、私は一度この絵を見ておきたかったのだ。闇が迫る森の中に数人の人間の影。肖像画を何枚も描いておきながら、スタジオで衣装を(コスプレ?)を着せた絵を描き続け、最後まで人間の生々しい情感には関心の薄かったコローらしい、人影の小ささである。画家の目線は「遠くからその森を見ている人」であって、主人公たちの「現場」には踏み入っていない。しかし「心象風景」を描くには、この程度の距離感が何とも味わい深い。
  • 「ビブリ」は絵はがきになって売られてはいたが、森の闇が黒く潰れており、とても鑑賞に堪える印刷ではないので買わなかった。しかたなく図録を購入し(「ビブリ」は図録でさえもそれほど綺麗な印刷ではないが)、時間があれば眺めている。